2017年8月23日水曜日

そば屋のメニュー

どこかで聞いた話です。
もうかなり以前のことなので、記憶は曖昧です。
間違っていたらあらかじめお詫び申し上げておきますが、、、。

ある男優さんが、食事のためそば屋に入りました。
壁にはそば屋のメニューがずらりと貼り出されています。
注文してからの待ち時間、
彼は、いたずら半分にそのメニューを端から順に読み上げていきました。
店中に聞こえるように、感情をたっぷりこめて、、、。
するとその場に居合わせた客が、みな感動のあまり涙したのです。

つまりですね、
この役者さん、ロゴスに頼らずにパトスを得たということなんですね。
日常生活においても、私たちはついセリフに頼っちゃいます。
言葉がもともと持っている意味が、相手にちゃんと伝わると思っちゃうんですね。
でもそれだけじゃいかんのですね。
ちゃんとは伝わらない。100パーセントじゃない。
ロゴスだけじゃダメ。パトスと、そしてエトスも。

『そば屋のメニュー』は、ウチがよくやるエチュードのひとつです。
あ、別にそば屋じゃなくてもいいんですけど。
板に立つ役者は、ある任意の言葉しか発することはできません。
たとえば「鴨南蛮そば」と決めたら、その人のセリフは終始「鴨南蛮そば」。
言葉が縛られているけれど、感情は自由に動かすことができます。
言葉に頼らずに、自分の感情をいかに相手に伝えるか。
つまり、そういう練習です。

ここで肝腎なのが、実は密かに意識の分散なんですね。
メニューを言うことばかりに集中しちゃうのはダメ。
感情を伝えようと意識しすぎて、ついメニューじゃない言葉を口にしちゃダメ。
当然のことながらそれらをクリアするだけじゃない。
立ち姿、指先・足先までの意識。ミザンスにも注意を払って。
役者が自分の存在そのものに意識を払えないのが、実は一番の問題。
こういうトリッキーな稽古をすると、
自分たちが普段どれだけロゴスに頼っているかがわかります。

秋大の脚本創作はゆっくりゆっくり進んでいます。一応。
コマッツィオが戻って来ないとキャスティングできないぞ。
ハヤクカエレ ミナシンパイシテマス ハハ

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