2026年6月4日木曜日

『夏が追いつく前に』上演意図

 エンターテインメントや伝統芸能は、新型コロナウイルス流行下において「不要不急」と位置付けられ、その価値が厳しく問い直された。しかし本当にそれらは、人間にとって不要なものなのだろうか。確かに、生物としての生存という観点に立てば、食料や住居のような直接的に生命を維持する要素に比べ、エンターテインメントは不可欠とは言い難い。だが、人間が単なる生物ではなく「社会の中で生きる存在」である以上、この評価は不十分である。

 第一に、エンターテインメントは人間の感情を調整する重要な機能を担う。人は喜び、悲しみ、怒りといった感情を内面に溜め込むのみでは、精神的な均衡を保つことができない。物語や芸能は、安全な環境の中でそれらの感情を経験させ、解放する役割を果たす。笑いは緊張を緩和し、悲劇は共感を促し、怒りは倫理的判断を支える。こうした感情の働きは人間関係の基盤そのものであり、エンターテインメントはその調整装置として機能しているのである。

 第二に、エンターテインメントは社会的なつながりを形成する。人は共通の物語や体験を通じて他者と結びつく。同じ舞台を見て笑い合うことや、同じ作品について語り合うことは、単なる娯楽以上の意味を持つ。それは、個人を社会へと接着する役割を果たしている。もしこうした共有体験が失われるならば、人々は孤立し、社会は分断されやすくなるだろう。

 さらに、伝統芸能はそれ以上に特別な意義を持つ。それは単なる娯楽ではなく、長い時間をかけて形成されてきた「身体知」の体系だからである。たとえば、落語の間合いや能の静けさは、文字情報として完全に伝達することが難しい。それらは実践と体験を通してのみ受け継がれる知であり、過去の人々の感覚や思考様式を現代に伝える媒体である。伝統芸能が途絶えるということは、この身体知が断絶し、人間の感性の選択肢が一つ失われることを意味する。

 また、伝統芸能の存在は「役に立つか否か」という尺度だけで価値を判断する危険性に歯止めをかける。現代社会は効率や実用性を重視する傾向が強い。しかし、すぐに利益を生まないものにも、人間の精神を豊かにする価値がある。むしろそうした「非効率な価値」を保持することが、人間社会の多様性と奥行きを支えていると言える。

 以上の点から、エンターテインメントは確かに生物としての生存にとっては不要不急である。しかし、人間が人間として生きる、すなわち感情を持ち、他者と関わり、歴史や文化の中で自己を位置づける存在である限り、それは決して不要ではない。むしろ社会を成立させるためには不可欠な要素である。ゆえにエンターテインメントは、「不要不急」ではなく「非即時必須の基盤」として再評価されるべきであり、その価値を守り続けることは、私たち自身の人間性を守ることにほかならない。


2026年1月5日月曜日

劇団員へ年頭の挨拶

年末のHTFは、よっぽど良かった。
どの舞台にも挑戦的要素が感じられた。
商業にはならんかも知れんけど、利害や得失を度外視して、誰もが闊達に演じていた。
大人しくちんまり収まった芝居など、若者が指向するべきではないよ。
学生は無責任でいいんだよ。
もっと自由に発想して演劇の可能性を拡げて欲しいんだよ。

さて、我が劇団員に向けて。
せっかく脚本を創作するなら、私はどの登場人物も殺さないのがいいと思っている。
いや、物語上の生死という意味ではなくね。
どの役にキャスティングされても、それぞれに演じ甲斐が感じられる脚本がいい。
自分が演じたいと思えるような人物を造形したい。
生きた人間を描いた脚本にしたい。
意識の流れ、感情の波に嘘があってはいけない。
そして、その物語が演劇でなければ表現できないような要素を孕んでいるほうがいい。
他の表現方法のほうが有効であるなら、演劇という手法を用いるべきではない。
ものさしは生身の役者体が必要とされるかどうか。
役者がのこのこ登場してきて覚えた台詞を順番に喋るだけならそれは演劇とは呼ばない。
※多様性という視点からはそれもまた演劇であるべきなのだが。
なぜその物語は役者体を必要とするのか。
言い換えれば客席はなぜ役者体が舞台上にパリッと揃っているのを見たいのか。
躍動する肉体が見たいからではないのか。
もちろん人間の能力には限界がある。
舞台には制約がある。
だが、むしろその制約を逆手にとるぐらいの気の利いた演出があることが望ましい。
アニメのようなデフォルメされた動きを生身の人間がやってのけるところに客席は感動する。
逆説を弄するようだが、肉体の躍動を表現するためには「静止」することが必要である。
強調表現ばかりでは結局のところ平板な印象の作品に成り下がってしまう。
完全なる「静止」の中には限りなく遠く高く跳躍するためのエネルギーが内包されていなければならない。
そのうえで全体のバランスを取らなければならない。
誰か一人だけが突出していても興醒めだし、沈没していても一座の足を引っ張るだけ。
もちろん劇団全体のスキルがバランス良く向上していくのが理想なので、下手でもバランスが取れてりゃいいとは微塵も思わない。
年が改まり、それぞれ進級が目前に迫ってきているこのタイミングで問いたい。
日々の稽古がルーティンに堕してはいまいか。
馴れ、だれ、崩れ=去れ、は伊達じゃない。
基本をしっかりと身につけて融通無碍に己が肉体を使役できるようになってこそ次のステージに這い上がれるもの。
新入生を迎える前に、この年頭にこそ、我が劇団の理念をそれぞれに確認されたい。






bgm:タントリズム『夏が追いつく前に』

2025年11月26日水曜日

『Go ahead!』アンケートです

校内公演『Go ahead!』11月22日(土)@401教室

ご観覧いただきありがとうございました。

日頃の感謝も込めての校内公演です。

恒例!皆様からいただきましたアンケートを一挙公開です。


〇作品全般についてのご感想をお書きください。

・ヒーロー作品っぽくまっすぐな話でした。

・最終回を自分たちでやっちゃおうなんて面白いです。

・戦隊シリーズが今年で完結だから、タイムリーな作品。

・特撮作品が主演の不祥事で打ち切られるという、実に生々しく世知辛い設定を作品にしたのがすごい。よく展開が拡げられていたと思う。

・ダンスあり、笑いあり、アクションありでとても楽しめました。やはり、最後に希望がある作品は好きですね。

・唐突に始まるDJオズマからのショートコント合戦がシュールで好きだった。

・すごく面白かったです。二重の意味で皆さんの作品への思いが伝わってきました。

・夢の中の話のとき(註:インベムの催眠攻撃のこと)風邪の時に見る夢みたい(笑)

・作品への復讐だったのが、蒼汰くんのための最終回に目的が変わるのがいい。

・仲悪かったマスコミカとエミーネ様が、睡魔のあと、手をつないで起きあがるのいいですね。

・キョーコちゃんを洗脳しようとするシーン(註:インベムの精神攻撃のこと)がちょっと怖かったです。

・ギャグシーン面白かったです。ボクサー好きです。

・キョーコちゃんの「ちょっとなに言ってるか分かんない」が潔いおバカな感じで好き。

・ストーリーがとても面白かったです。

・劇中劇の世界とメインの物語の世界との演じ分けが良かったです。

・メッセージが強く伝わってきて良かったです。

・人間の存在に関するメッセージ性がはっきり伝わりました。



〇役者の演技についてご感想をお書きください。

・一人ひとりの個性が立っていてステキでした。

・感情が込められていて引き込まれました。

・大喜利のネタが終わったあとの「間」がくすっと笑っちゃいました。

・特に説明があったわけではないのに、一人ひとりのキャラクターや考えていることが伝わってきてすごいなーと思いました。普段校内で会っても別の人だと感じそうです。

・それぞれが振り切っていて、かつキャラがしっかり立っていて良かったと思う。


〇音響・照明・舞台美術などについてのご感想をお書きください。

・照明も音響も、キャストさんの動きにぴったりで、舞台をステキに豪華に演出。飽きさせない演出でした。

・主題歌かっこいいですね。客入れで流してくれたおかげで、より入り込めました。

・あの曲、主題歌はオリジナル?!(註:はいオリジナルです)

・あの大剣欲しい。

・カーテン新しくなって全体的に暗くなった。だからこそ、隙間の光が気になる。

・オイルヒーターにケコミを飾って、きちんと隠されてるのよい。

・小道具が好き。

・剣や背景の階段など、道具がアニメやゲームの世界を表しているのだろうなと感じました。

・エリカ様の未練のシーンの光がよかった。キレイにエリカ様が輝いていました。

・舞台美術のコンクリやさびの塗装がリアルでした。

・客席の後ろに音照ブースあるのが本格的。

・BGMのタイミングと舞台上の進行の噛み合いがさらに洗練されると良いと思った。

・一つの舞台装置しかないのに作品が深く感じられたのは、音や照明の力だと思います。素晴らしい!


〇あなたの「ヒーロー」は誰ですかッ!!!

・祖母。好奇心の多さは祖母のおかげだからですかね。

・母親。いつまでも私の助けとなってくれる素敵な人です。

・うーん誰でしょう。誰かが誰かのヒーローになる世界がいいですね。

・推し、先生、友。

・THE  ALFEEの三人です。

・木村拓哉。

・何度間違えても立ち上がる、決して負けない人を指す言葉だと感じました。


この作品は今年の秋季地区大会で上演したものです。
地区での評判は芳しくなく、というよりほぼ無視された感じ。票がまったく入りませんでした。まあ、価値観の相違に文句を言っても始まりませんが。

ただ、ですね。演劇の可能性を拡張できるはずの、いい意味で無責任な、学生だけに許される演劇ってもんがあるんじゃないかと、思うわけですよ。他校さんの中にも、本当はウチみたいな芝居をやりたいと思ってる人がいるとか、いないとか。

「高校演劇」という区分が、演劇を画一的でつまらないものにしてる気がしてならないです。憎まれ口、ご容赦ください。

2025年9月14日日曜日

松陵祭公演『かおるとカオル』アンケート

松陵祭公演『かおるとカオル』ご観覧いただきありがとうございました。

 アンケートへのご協力も多数いただきまして恐縮です。

その中から許可をいただいたご意見を掲載します。

(同様のご意見は集約させていただきました)

〇作品全般についてのご感想をお書きください。

・ストーリーめちゃ面白かったです!裏方の仕事ってこんな忙しいのか…!と知りました!

・設定がおもしろかったです。文化祭を舞台にした物語は松陵祭らしくて良かった。

・音響、照明にスポットをあてる話はおもしろかったです。

・見入ってしまいました。失敗も成功に変えられる!それもまた新しい発見になったり!

・青春ですね。人が見ていない所にもドラマがたくさんある。

・全般に中身のつまった面白さでした。文化祭にふさわしい内容だったと思います。

・演劇部以外の役は、本職かと思うくらいよくできていました。

・感動的な演出に久々のhappy time.

・コメディ色と成長モノっぽいところが融合していてよかった!

・物語の背景を事前に説明してくれるのは良かった。わかりやすかった。

・話が、特に演劇部のところが面白かった。

・かおるとカオル2人の会話から、それぞれの性格が分かったり、仲良くなっていったりするのを見るのが楽しかった。

・他の演目も見てみたい。

〇役者の演技についてご感想をお書きください。

・仕草とか全部がキャラ!って感じがしてスゴかった!

・動くところと止まるところのメリハリがしっかりしていた。

・一人ひとりの魂を込めた練習はさすがのものです。

・わざとらしさが少なく、自然に演じられていたと思う。

・声や表情が役者さんって感じですごかったです。

・話すスピードや声の大きさ、表現力豊かで良かったです。

・声の出し方でカオルがうそをついている感じが分かった。

・かおるの慌てている声が上手でスキです。

・かおるの演技が演技している感じではなくて良いと思いました。

・声がなめらかで聞きやすい。

・二人とも調光室からステージを見ているのが表現できていて良かった。

・演劇部の二人のセリフのない掛け合いが面白かった。

・何をやりとりしているのかがちゃんとわかった。

・難しい言葉(舞台用語)を使ってるのがかっこよかったです。

・高校1年生が袴姿で剣舞しているのが良かった。

・春暁の詩吟も本物の役者さんのような声を出していてすごかった。

・演劇部なのにダンスも練習してたんだと知ってびっくりしました。

・ダンスのときの照明が影を作ってかっこよかった。

・ダンス上手だったよー!!

・どの役者さんもそれぞれ魅力的で素晴らしかったです。声質もそれぞれ素敵でした。

・表情の作り方が素晴らしい。最後まで興味が途切れることがありませんでした。

・みんな楽しんで演じているのが伝わってきます。

・前説から一気に引きこまれました。

・感情がわかりやすくてすごかった。「仲間!」で視線が合うのが好き!


〇音響・照明・舞台美術などについてのご感想をお書きください。

・照明が点滅して音響とタイミングが合わさったとき、めっちゃくちゃアツかった!!

・銃声のタイミングがミスってしまうところが良かった。

・タイミングが合っていてすごく良かったです!

・音楽がその場の雰囲気にすごく合っていて入り込めた。

・剣舞と音楽がピッタリ。

・器材や設置環境に制限のある中、随所に工夫が見られ、良かったと思います。

・まず装置が公立とは違うと思った。客席が階段状にセットされていて見やすかった。

・コンパクトな空間でまとまりがあった。

・照明の切り替え方がかっこよかったです。

・ダンスドリル部の照明がきれいだった。

・開場から流れている楽しそうな音楽(客入れの曲)のおかげで緊張しませんでした。

・きれいに整頓されている会場!


〇今、夢中になっていることはなんですか?

・ピューロのステージとか見るコトです!

・文化祭に向けた演劇の練習。

・鉛筆で絵を描く。

・メイク。

・ゲーム。

・歌!

・読書、アニメ。

・くちぱっちのかわいさ。

・子とあそぶこと。

・Jリーグ観戦。

・K-POP。

・TOEICの勉強。

・勉強。

・学校生活。

・発声のコツをつかみたいです。

・仕事!







念のため申し添えておきますが、詩吟、剣舞、ベース演奏は、この台本が決まり、配役が決まってから練習を始めたものです。決して特技だというわけではありません。あ、もちろん拳銃の扱いも、ですが、、、。

ダンスドリル部の振り付けは、演じた役者自身が創りました。曲の編集も彼女が担当しています。

ついでに、もうひとつ。音響・照明の機材は十何年もかけて少しずつ買い足してきたものです。いかな私立と言えど無尽蔵に予算を注ぎ込めるわけではありません。

さて、次回公演も張り切って参ります。まずは、台本を書かねばなりません。既成作品ははなっから選ぶ気はありません。劇団ERAは創作専門の演劇集団ですから。