劇団ERAの本棚

夏が追いつく前に

富岡とみおか まゆ(転校生・高2)

吉井(よしい) 友亜(ゆあ)(郷土芸能部員・高2)

本庄(ほんじょう) 玲奈(れいな)(郷土芸能部OG・大学1回生・友亜の憧れ)

児玉(こだま) 和可(のどか)(郷土芸能部員・高2)

横川(よこかわ) 沙耶(さや)(日本史の先生・郷土芸能部顧問・繭の従姉)

松井田(まついだ) 妙子(たえこ)(郷土芸能部外部指導員・昭和最後の舞姫)

 

【第一景】

踏切警報音、電車の通過する音、駅の改札口

東京へ旅立つ玲奈、見送る友亜、和可、横川先生

玲奈「じゃあ、ここでいいです」

横川「東京はホコリっぽいからね。本庄さん、咽喉弱いから。気を付けるのよ」

玲奈「ありがとうございます。先生もお元気で。……ってこういうの苦手だなぁ」

和可「玲奈先輩、今度、いつ帰ってくるんですか」

玲奈「夏休みかな。大学始まってみないとわからないけど。あ、でも、宵宮には絶対帰って来るよ。友亜と和可で舞う奉納神楽、楽しみにしてるから」

和可「そうですよ。絶対絶対、見に来てください。バッチリ稽古しときますから」

友亜「玲奈先輩の稽古、厳しかったです。いなくなっちゃうなんて淋しいです」

玲奈「そうね、淋しいね」

友亜「さよならなんて、言いたくないです」

                 友亜、涙を見せまいとして後ろを向く

玲奈、カバンから舞扇を取り出して

玲奈「もお、友亜。泣かないの」

友亜「泣いてないですぅ」

玲奈「はいこれ、友亜に」

友亜「これ、先輩が大切にしてた扇じゃないですか」

玲奈「これからは、友亜が後輩に稽古つけるんでしょ」

和可「新一年生が入部してくれば、ですけど」

玲奈「入ってくるよ、絶対。だから、(扇を友亜に託して)魂を引き継いで欲しいんだ」

舞扇を受け取り頷く友亜

玲奈「じゃあー、あとは任せたよ。友亜、和可。郷土芸能部」

二人「「はい」」

横川「よし。本庄さんの東京での活躍と、郷土芸能部の益々の発展を祈って、ぃよおぉ~」

全員、一本締め

玲奈「(横川に)先生もお元気で。(二人に)じゃ、ね」

                 改札を抜けてホームへ消えてゆく玲奈

 

 

【第二景】

横川先生下ネライ

と、上に繭が出る

電話で話し始める二人

横川「いーい、繭。とにかく新しい環境を怖がらないこと。いつまでも過去を引きずらないこと。なんにも動かないでいることの方がよっぽど怖いんだからね」

繭「沙耶姉ちゃん、なんか軽いし」

横川「ダメで元々なんだからさぁ。ここは思い切ってどおんとやるっきゃないのよ」

繭「他人事だと思ってない」(あえて〝たにんごと″と読むこと)

横川「だって他人だもん」

繭「え~ッ、冷た」

横川「従姉妹とは言えど、他人は他人でしょ。でも……伯父さんから話は聞いた。繭が仕切り直したいって言うんなら、及ばずながら手を貸してあげるから。だからなんにも心配しないで、思い切ってこっちに来ちゃえばいいのよ」

繭「二年間の我慢だし。でなけりゃ誰が沙耶姉ちゃんの村なんか」

横川「村じゃないよ。一昨年から町になったんです。とっても暮らしやすい、いい町よ。もういっそのこと、こっちに永住しちゃえば」

繭「やだよ。大学からまた東京に戻るんだから」

横川「あと、繭。わかってんだろうけど、学校で『沙耶姉ちゃん』はナシだからね」

繭「わかってる。横川センセ」

横川「いくら従姉妹でもケジメだけはつけないとね。それと、うちの高校、部活は強制参加なのでよろしく」

繭「いまどきそんな学校あるの?……なんかいまさら人間関係とか疲れるんだよね」

横川「だったら、ウチの郷土芸能部を手伝いなさいよ」

繭「郷土芸能部って確か。沙耶姉ちゃんも高校ン時、郷土芸能部だったんだよね」

横川「そ。母校で教壇に立てるのもご縁だし、その上、部活の面倒まで見させてもらってるなんてね。そうやって承け継いでいけるの、恵まれてるって思うよ」

繭、はける

横川、電話をしまい、そのまま中ネライで独白に入る

 

 

【第三景】

お囃子の音が流れてくる

コロスが長机、デッキ、座布団など持ち込んでくる

横川「六月の第二週と言えば、私たちの町では八幡様の例大祭と決まっております。本祭の前日、いわゆる宵宮の日。われらが郷土芸能部は、神社の神楽殿で舞を奉納することになってるんです。いまはまだ、その稽古中でして」

ここまで言うと一旦ハケる

より一層盛り上がるお囃子の音

公民館の和室という体

友亜と和可の練習「鈴上舞」(初心者の舞)、息がぴたりと合っている

外部指導員の松井田がそれをジッと見ている(『昭和最後の舞姫』の風格)

曲が終わって松井田がデッキを止める

松井田の前に並んで正座する二人

松井田「二人とも、型は憶えたようですね」

二人「「ありがとうございます」」

松井田「しかし、型をなぞるだけでは不十分ですよ」

二人「「はい」」

横川先生が来る

横川「失礼します」

友亜と和可、反射的に立ち上がって

二人「「こんにちは」」

横川「(下手袖中に)あ、靴はそこで脱いで。荷物はそこに置いて」

繭が入ってくる

友亜と和可、移動

和可「あれ? あの子、今度うちに転校してきた子じゃない」

友亜「え、そうだっけ?」

和可「そうだよ」

松井田の前に横川、繭、正座して

横川「松井田さん。この子、今度うちの学校に転校してきました、ホラ、自己紹介して」

繭「初めまして。富岡繭といいます」

横川「今日から郷土芸能部の練習に参加します。よろしくお願いします」

                 横川、床に手をついて礼

                 繭も遅れて礼

                 松井田、繭を一瞥して、ゆっくりと頷く

松井田「はい。よろしく」

横川「ということなので、吉井さん、児玉さん、二人ともよろしくね」

和可「よろしくって、この子、入部するんですか」

横川「まずは見学がてら何かとお手伝いしてもらって。入部するのはそのあとで」

繭「ちょっと沙耶姉ちゃん。誰が入部するって言った? ちょっと手伝うだけだって言うから来たのに、話が違うし」

横川「ああ、はいはい」

和可「どういうことですか」

友亜「ちょっと転校生、いま沙耶姉ちゃんって言わなかった?」

横川「あぁまぁ、別に秘密にすることでもないんだけどね。実は私たち、従姉妹なんだよね」

友亜・和可「「はあ……、従姉妹お!?」」

横川「そ。親同士が兄妹でね」(繭パパと沙耶ママが兄妹、の設定です)

繭「私、部活なんてどこも入るつもりないし」

横川「言ったでしょ。うちの高校は、全生徒強制参加だって」

繭「途中からじゃついてけるかどうか自信ないし」

横川「その点、郷土芸能部なら安心よ、みんな初心者から始めてるし。それに、一応文化部だから、運動部ほどツラくはない。外部指導員の松井田さんもいるし、私も一応、経験者だから、指導体制もバッチリです。ちゃんと練習すれば誰でも一通りのことはできるようになるし、まずは体験入部からってことで、いかが?」

和可「通販番組みたくなっちゃってますよ先生」

横川「あら?(笑ってごまかす)」

友亜「先生この子、神楽の経験はあるんですか」

和可「そうそう、それそれ。経験者だったら助かるね」

横川「(繭に)どうなの? 東京にもお祭りはあったでしょ」

繭「……神楽ってなんですか」

友亜「そっからかよ」

和可「神楽って言うのはね、お祭りの晩に、神様に奉納する舞だよ。笛と太鼓でお囃子を演奏して、お囃子に合わせて私たちが鈴と扇を持って舞うの」

友亜「あと衣裳」

和可「あっ、あと衣裳ね。磐座八幡神社伝統の衣裳を着けて、二人一組で息を合わせて踊るの。二双一対って言うんだけど……わかる?」

繭「あぁ、まぁ、なんとなく……」

和可「笛とか、太鼓とか、できるかな」

繭「はぁ、教えてもらえば」

和可「大丈夫だよ。ちゃんと練習すれば、まだ宵宮の本番まで時間あるし」

繭「いや、でも」

友亜「……ちょっと、転校生。横川先生の従妹だからって無理しなくていいのよ。そんな嫌そうにすんなら手伝いなんて要らないから」

和可「ちょっと友亜やめて」

友亜「先生も先生です。こんなヤル気のない人を連れてきたりして。部としても困ります」

繭「ヤル気ないなんて言ってないし」

友亜「それに、教えてもらえばってナニ? 神楽なめてる? 和可が言った通り、ちゃんと練習すればなんだよ。そんな態度でいくら稽古したって、うまくなるわけないじゃん」

繭「馬鹿じゃないの、ヤル気ないなんて言ってないし」

横川「繭!」

 

 

【第四景】

松井田「神にぃ~ッ!」

全員、松井田に注目

松井田「仮にも神に舞を奉納しようとする者が、そのような心のありようでどうしますか!」

横川「そうでした。私たちが舞を舞うのは、神様に喜んでもらうため。基本的なことを忘れていたようです。まずは神楽とはどんなものか、繭に見てもらいましょう。二人とも、準備して」

「鈴上舞」の位置につく二人

横川「磐座様に、礼。お互いに、礼。……ホラ、繭も」

慌てて座り直し、遅れて礼をする繭

友亜「なに転校生、まともに礼もできないの」

繭「ゴメン知らなくて」

友亜「見ててわからない?」

和可「友亜やめて。初めてだもん、わからなくて当然じゃない」

友亜「場の空気を乱されるのが一番ヤなんだよ」

横川「吉井さん、ごめん。私がいけなかった。ここでの作法とか、繭に教えてなかったから」

                 白扇と神楽鈴を取りに行く友亜と和可

と、玲奈の扇を触ってしまう繭

繭「……あのぅ、これ」

友亜「ちょっ、転校生!(奪還する)勝手に触らないでよ!」

繭「ごめん。それ、忘れてるんじゃないかと思ったから」

友亜「忘れてんじゃないの。私がここに置いたの!」

和可「それ、友亜が先輩から貰った大切な扇だから。勝手に触っちゃだめだよ」

繭「ホントごめん、知らなくて」

和可「知らなかったんだからサ、しようがないじゃない、ね」

友亜「だったら大人しく座ってて、お願いだから乱さないで。(繭を詰る)神楽はね、そこに居合わせた人、みんなが心を合わせて初めて成立するもんなんだよ。転校生なんかの出る幕じゃない!」

繭「別に! こんな町、来たくて来たわけじゃないから。高校出たら言われなくったって東京戻るつもりだし!」

横川「繭!」

稽古場を飛び出していく繭

横川「……あ~、二人とも、ごめん」

以下の独白中に友亜、和可、松井田はいったんハケる

横川「この町でやり直す繭のために、良かれと思って郷土芸能部に連れてきたんですが、ちょっとやり方が強引だったかも知れません。でも、少しでも早く、繭にはこの町に馴染んでもらいたかったんです。繭と友亜。二人の出会いは、こんなふうに最悪でした」

横川、ハケる

 

 

【第五景】

                 稽古場の友亜と和可、また別の日という体

他愛のない会話、ストレッチしながら

友亜「えー、それって、喫茶店とは違うの?」

和可「普通の喫茶店でコーヒーって言ったらブレンドかアメリカン。あとは、ホットかアイスか。でも、そのコーヒーショップはね、自分の好みでいろいろ注文できるんだよ」

友亜「ふうん。なんかめんどくさそ」

和可「そこが売りなんだよ。たとえば、(スマホの画面を見ながら読み上げる)エクストラショット・ノンホイップ・キャラメルプディングマキアート」

友亜「なにそれ。いま私のこと倒そうとした?」

和可「呪文を詠唱してるわけじゃないよ。エクストラショット・ノンホイップ・キャラメルプディングマキアート。まずエスプレッソの苦み、次にプディングの甘さ、最後にキャラメルの香りがふわっと残る。甘すぎないキャラメルラテ、だって」

友亜「苦いんだか甘いんだか、どっちつかずだなぁ」

和可「目指したのは『複雑な乙女心』、だって」

友亜「メニューが決まってる方が安心するな、私は」

横川先生が来る

友亜・和可「「こんにちは」」

横川「こんにちは」

続けて稽古場に入ってくる繭

友亜「あ」

                 気まずい間

友亜「来たんだ」

横川「ああ、繭。良かった、もう来てくれないんじゃないかって思ってた」

繭「別に。逃げたって思われるの、ヤなんで」

友亜「人聞きの悪いこと言わないで。誰もそんなこと思ってないよ、(和可に)ね」

和可「あぁ、うん」

横川「二人とも、準備はできてる?」

二人「「はい」」

横川「磐座様に、礼。お互いに、礼」

二人「「お願いします」」

友亜と和可が練習を始める

「鈴上舞」(初心者用の舞)

と、和可の調子がおかしい

横川「ちょっと待った。はいはい、なんかおかしいよ。息が合ってないね今日」

友亜「和可、振りが安定しないけど。なんかあった?」

和可「えええ? 振りがおかしい? 自分じゃわかんない全然」

友亜「振りっちゅうか、タイミングがさ……」

繭「あのぅ」

友亜「なに転校生、あとにしてくれる?」

和可「友亜(たしなめて)。(繭に)どうしたの?」

繭「的外れかもしれないけど、もしかしたらその足袋、新しいんじゃないかな。その、まだ足に馴染んでないとか。動きにくそうに見えたんで、なんとなく」

友亜「そうなの? 和可」

和可「きょう下ろしたばかり。たしかに、まだちょっと硬いかも」

友亜「まさか和可、買ってきてそのまんま履いてるとか?」

和可「え」

横川「児玉さん、履く前にちゃんと洗濯した?」

和可「あのぅ~足袋って、履く前に洗うもんですか?」

横川「新品だと、底に糊がついたままだから滑りやすいのよ」

和可「知ラナカッタヮ、ゴメンナサイ」

友亜「滑るのが気になって、振りのタイミングがズレてたと」

和可「全然、無意識だったあ。よく気付いたね」

繭「いや、その、ごめんなさい」

友亜「なんで、なんで転校生があやまるの?」

繭「出過ぎたマネしちゃって」

友亜「そんなこt……」

和可「そんなことないない。教えてくれてありがとう、繭ちゃん」

                 和可に先を越される友亜

MEに乗せて稽古の日々を描く

横川先生が繭に太鼓の手ほどき

MEフェードアウト、照明切り替え

誰もいなくなった稽古場

ひとり舞の真似ごとをする繭

繭の床を踏む音だけが響く

黙々と舞う繭

 

 

【第六景】

右足を庇いながら和可が稽古場にやってくる

横川「ちょっと。児玉さん、どうしたの」

和可「バスケの授業で、足くじいちゃって」

友亜「養護の先生、何だって?」

和可「ただの捻挫だろうって。念のため明日、医者に行く。でも、しばらく稽古できないね」

横川「でも、この時期、助っ人頼むにしても、他の部活だって大会始まってるなあ」

和可「代わりに繭ちゃん。どうかな。私の代わりに踊ってよ」

友亜「はぁあっ?」

繭「むりむりむり」

友亜「転校生にできるわけないじゃない。和可もわかってるでしょ、奉納神楽は二双一対、ただの代役では勤まらない。まして余所者が急拵えでできるもんじゃない」

一同、沈黙

松井田「他に誰がいます? 富岡さんと組むのも、面白いんじゃないですか」

友亜「この子とじゃ無理です(同意を求めるように和可に向く)」

和可「知ってるよ私。みんな帰ったあと、繭ちゃん独りで舞の練習してるの」

友亜「でも、私は和可とじゃなきゃ……」

                 一同、沈黙

横川先生が静かに語り出す……(長台詞がんばれ)

横川「私、高三の時、コロナで中止になったのよね、神楽舞。青春強制終了。泣いたよ、そりゃ泣いた。もちろん誰が悪いとかいうお話じゃないけど。今でもこうやって話してるだけで、鼻の奥がツンとしてくる。だから、同じ思いを後輩にはさせたくない。

お祭りって、神さまと人、人と人とを結ぶ行事でしょ。だから、中止は、中止だけは。まして自分たちの勝手な都合で中止にするわけにはいかないと思ってて。

ギリギリまで踏ん張って、最後の最後まであがいて初めて、神様が応えてくれるんだと思う。こういうピンチの時こそ人間の真価が問われるんだと思う」

やおら重々しく繭が口を開く

繭「……じゃあ、私がやる。誰もいないなら、私がやる。できるできないじゃない。今は誰かが立たなきゃいけないんでしょ」

MEに乗せて繭と友亜の稽古

和可が太鼓を叩く

うまくいくはずもなく友亜にぶつかってしまう繭

友亜「ちょぉおっと! 転校生!」

繭「ごめん」

横川「もっと相手の動きを意識して。自分勝手に動いてるだけじゃダメよ」

繭「はい」

横川「もう一回」

型の友亜、情念の繭という対比を表現したい

どうしても繭の振りは大雑把になってしまう

                 MEに乗せて

横川先生が繭に手ほどきする様子だったり

和可が太鼓を叩く練習をしたり

稽古が積み上がっていく様子がダイジェストで描かれる

 

 

【第七景】

                 「八幡舞」(中級編)

横川「十五分まで休憩。ちゃんと水分補給してね」

二人きりにされる友亜と繭

友亜「(あさっての方向を向きながら)私、やっぱりあんたとは踊れないな」

繭「ゴメン」

友亜「そのすぐゴメンて言うの、気に入らない」

繭「ゴメン、あ」

友亜「ウチは世界一不幸な少女やねん、って顔して。何があったか知らないけど、自分だけが辛いみたいな、なんていうの、悲劇のヒロインを気取ってるっていうの、そんなあんたとはね、神楽は舞えないんだよ」

繭「もしかして喧嘩売られてる?」

友亜「さあね。私と和可は、生まれた時からずっと一緒だった。あ・うんの呼吸っていうの? 二双一対の舞を舞うには、これ以上ない最強のコンビだよ。でも、和可が外れて、代わりにあんたと舞うことになって、逆に気付いたことがあって」

繭「なに」

友亜「自分の舞の弱点。以前、松井田さんに言われたんだよね。型をなぞってるだけじゃダメだって。私、この町で、小っちゃい時から神楽を見て育ったからさ、型を厳格に守ることが神様を敬うことだって信じてきたのよね」

繭「何の話よ」

友亜「まあ聞いて。それに比べてあんたの舞は、型は全然だけど、それでも懸命に、情念で舞ってるように見える。あんたと一緒に舞うと乱される。私はそれが怖かったんだ」

繭「なんで、そんなこと」

友亜「あんたも自分のこと話しなさいよ。あんた、そもそもなんでこの町に来たの」

繭「そんなの、他人に話すことじゃないし」

友亜「神楽の相方は他人じゃないよ。こっちだって、自分の弱み、さらけ出したんだから」

繭「そんな、そっちが勝手にさらけ出してきたんじゃない」

友亜「いーから」

                 少し言い淀んでから

繭「前の学校で、人間関係で失敗して。いられなくなって転校したのよ」

友亜「うん」

繭「よくある話よ。いじめられてた子を放っておけなくって、私がかばったら、今度は私が標的にされて。ちょっと人間関係とかそういうの疲れちゃってもういいやって。他人と距離を取ろうって思って。この町には逃げてきたんだ」

友亜「そっか。素っ気ない態度だったのはそれが原因か」

繭「私がお節介だからいけなかったんだよね」

友亜「だから、なんで悲劇のヒロインを気取るんだって。あんた、悪くないじゃない。お節介上等じゃない。誰かの世話を焼いたことが、かえって仇になったって、悪いことしてないって、自信持って胸張ってりゃいいのよ」

繭「でも」

友亜「ウチらにもっと関わってきなよ。ウチらそんなにヤワじゃないよ。どんなに繭がお節介だって、邪険にしないから。ていうか、お節介だったらウチらだって負けてないから」

繭「変な理屈だね」

友亜「たしかに、横川先生の従妹だもんね、わかる気がする。先生もお節介なとこ、あるからな」

繭「わかる? 沙耶姉ちゃんって、昔からそう。ホントお節介」

笑う

繭「もう逃げたくないから、和可の代役、引き受けたんだ。迷惑だったかも知れないけど」

友亜「もう代役なんてしなくていいよ」

繭「ごめん、乱してばっかで。そっか。……でも、友亜の隣、立ちたかったな」

友亜「代役しなくていいって、そういう意味じゃない。繭は和可の代役なんかじゃない。繭は、繭だよ。私の隣は繭がいい」

繭「いーの?」

友亜「いーに決まってる」

繭テレ、友亜もテレ

友亜「お茶、買いにいこ。まだ時間ある」

二人と入れ替わりに和可と横川先生

和可「ちょっと、いいですか。相談したいことがあって」

横川「うん」

和可「私の、足のことなんですけど」

 

 

【第八景】

                 横川先生中ネライ

横川「そんなこんなで。世間では大型連休、ゴールデンウィークなんてことになっておりますが、われらが郷土芸能部は、翌月に迫った宵宮本番に向けて、稽古の日々です」

                 常の照明

                 友亜、繭、和可が中央に寄ってきて

横川「じゃあ、本庄さん、こっちに戻ってるんだ」

友亜「そうなんです。連休中はずっと実家にいるって言ってました。で、今日の午後にでも稽古に顔を出すって」

横川「それは助かる」

和可「どうする? 玲奈先輩、東京に染まっちゃってたら」

友亜「そんな、あるわけないない。玲奈先輩に限って……」

繭「玲奈先輩って、友亜がいつも言ってる?」

和可「友亜、あこがれの人、だからね」

繭「なんか、妬けちゃうなあ」

ドアが開き、玲奈先輩が姿を見せる

玲奈「こんにちはー」

友亜・繭・和可・横川「「「「こんにちはー」」」」

友亜「って、どうしたんですか、早くないですか」

玲奈「みんな元気そうだね。友亜に早く会いたくて。迷惑だった、かな?」

友亜「全然、いいです!」

と、玲奈が繭の前に立つ

玲奈「あなたが繭ちゃんね。入部してくれてありがとう。郷土芸能部に」

繭「え? 私、入部してない、です、けど」

友亜を見て首を傾げる玲奈先輩

友亜「そ、そうだっけ? 入部してくれたもんだと思ってたけど」

繭「まだ、その、正式には……」

玲奈「そっか。でも友亜から〝とってもいい仲間ができた″って聞いてたから」

友亜は顔を真っ赤にする

和可はニヤニヤしている

と、いきなり玲奈先輩がジャージの上を脱ぐ

玲奈「じゃあ、軽くいってみよっか。いいですよね、先生」

横川「よろしくう」

友亜「いきなりですか」

和可「わあ、久しぶりですね」

玲奈「繭ちゃんに、私から伝えたいことはただひとつ。繭ちゃんは初心者なのよね。いきなりの大抜擢で大変だと思うけど、伝統は受け継いでくことが大事だから。一度途切れると、元に戻すのは大変なんだ」

横川先生と視線を交わして

今度は三人に

玲奈「神楽舞はね、静と動の切り替え、呼吸、姿勢、重心、所作の精度。どれを取っても大事なの。基礎練習は、どんなに繰り返しても、繰り返しすぎるってことはないからね」

三人「「「はい」」」

玲奈「まず、立ち姿を見せて。神楽舞の基本は、立つ姿勢だよ」

繭「(友亜に)立つ?」

友亜「そ。ただ立つだけ」

和可「だけどその〝立つ″が、すべての基本なんだよね」

玲奈「背筋を通すイメージで。肩は落として。下ッ腹に力を入れて。重心は足裏の中心に置く。顎を引く。目線は遠くに」

そのままの姿勢で、ひたすら立ち続ける

玲奈「はいオッケー。じゃあ次は、すり足で、端から端まで往復」

二人、すり足で歩く

玲奈先輩の指導の声

玲奈「足を上げずに。音を立てずに。上半身は揺らさずに。呼吸は乱さずに」

稽古場の端から端まで

繭は途中で呼吸が乱れる、友亜も動きがぎごちなくなる

和可は座って見ているが、表情は真剣

玲奈「じゃあ、二人とも、扇と鈴を持って」

友亜「あ、舞いの練習ですか?」

玲奈「ノー、まだ基礎練です。いーい。神楽舞は〝止め″が肝腎だからね。動きよりも、止まった瞬間を大事にする意識でね。扇を開いたまま静止。鈴を掲げたまま静止。目線は一点に固定。呼吸だけで身体を支えるイメージで」

なんとか喰らいつく繭

玲奈先輩は、微動だにしない

玲奈「はい、オッケー」

少しヘタレる友亜、繭

繭「結構、難しい~。意識してやったことなかったかも」

友亜「基礎は大事だね、やっぱり」

玲奈が繭の前に立つ

姿勢を正す繭

玲奈「友亜がね、あなたのことを〝すごく頑張ってる″って言ってた。その言葉に嘘はなかったよ」

友亜「え、あ、いや」

和可「友亜、そんなこと言ってたの? 玲奈先輩に」

友亜「だって、本当に、そう思ってたから」

繭「えへへ、友ぅ~亜ァ~」

友亜「なぁに、うるさいな」

玲奈「さあ、折れない心があるなら、強くなるチャンスだよ。もう一回いこう!」

繭、友亜「「えーーーーー」」

友亜「玲奈先輩の鬼!」

繭「ガンバロ」

いい感じのMEをバックに

練習が続いていく

 

 

【第九景】

繭と友亜は着替えてください

和可下ネライ

古文書『磐座八幡縁起』の一節を読み上げるという体

和可「むかし、磐舩の里に『松井田』といふ舞の家ありけり。その家に、ひとりの娘ありけり。夜ごと日ごとに舞ひつつ、神々を寿ぎ、大地を鎮むること、常のならひなり。その娘をば、「昭和さいごの舞姫」となむ呼ばれける。その舞は火のごとく、また風のごとく、ときに鬼神のごとく、見る人の心をゆり動かしたり」

        ページをめくる

和可「さて、世あらたまりて平成となる。されど舞姫の足どり止まず、人々のさわぎの中へと踏み入りて、「平成はじめの舞姫」とこそ呼ばれけれ。そのころ都には、夜を照らす七色の光あふれ、あまたの娘ら、扇かざして乱れ舞ふ。そのさま、いとをかし。さながら、古の舞の甦りしごとくなり」

 

 

【第十景】

                 無人の稽古場

松井田さんがピンクのジュリ扇を携えて登場

デッキの再生ボタンを押し、センター位置

ジュリアナ東京っぽい曲が流れ始める

照明チカチカ、東京港区芝で踊っていたその勇姿

松井田さんの青春が蘇る!

ひとしきり踊り狂って

松井田「カモンエビバディ。トキオナ~イ。アー、ユー、レディ!」

奇声を発する

と、そこへ……

 

【第十一景】

MEカットアウト

瞬間的に常の照明

横川「松井田さん。部内発表お願いします」

あわててジュリ扇を隠す松井田

横川「松井田さん……?」

                 まず和可が入室してくる

続いて友亜と繭が緊張の面持ちで現れる

奉納神楽、本番で着用する衣装

全員、松井田の前に正座

横川「松井田さん。部内発表の審査、よろしくお願いします」

三人「「「よろしくお願いします」」」

横川「磐座様に、礼。お互いに、礼」

三人「「「お願いします」」」

「八幡舞」(上級編)を再生

友亜と繭は、息が一致するように

同時に地を踏むように

繭が吸う、友亜も吸う

息の長さが一致する、そして、

二人の足が完全に同時に踏み込む

二人「「、……ッ!」」

床が少し震える(イメージ)

稽古場の空気が変わる

慶賀のホリゾント(アッパーピンク、ロー緑)

SSで陰影を強調する

やがて、二人が舞い終わり

一瞬の静寂のあと

聞こえてくる豆腐屋のラッパの音

ほぼ同時に常の照明に戻る

一気に緊張が崩れ、笑いが稽古場に満ちる

繭「なんか、緊張感が」

友亜「豆腐屋さ~ん、台無しなんだけど」

和可「友亜、失礼だよ」

                 また笑う

横川「(手をパンパン叩いて)ホラ、けじめ。……松井田さん、お願いします」

三人とも、きちんと正座して傾聴

松井田「(一座を見渡して)二双一対の舞ってのは、舞い手の心が通い合っていないと、あれほど綺麗に地は鳴りません。あなたたちの一歩は、二人で踏んだ一歩でした。嗚呼、まさか、稽古場で、これほどのものを拝めるとは思いませんでしたよ」

横川「て、いうことは……?」

松井田「ええ。合格です」

松井田、満足そうに頷く

一同、歓喜! 飛び跳ねて喜ぶ

                 重ねて松井田が口を開く

松井田「動きを合わせようとしなくてもよいのです。心が合えば、自然と動きも合うのです。二双一対の神髄は、観客ではなく、舞い手同士がお互いのことを強く感じながら舞うところにあります。神楽っていうのはね、神と人、人と人との絆を、強く結ぶための儀礼なのですよ」

                 松井田さん、満足そうに去っていく

友亜・繭・和可「「「ありがとうございました!!!」」」

                 後ろ姿に挨拶

横川「……二人とも、よく舞えました」

二人「「ありがとうございました」」

友亜「……あの、さ。変なコト聞いていい?」

繭「え、なに? なんか、怖いんだけど」

友亜「あー、繭じゃなくて。あのさ(和可に)いま、飛び跳ねてなかった? 足は、捻挫は?」

和可「……治ってたよ」

友亜「なんで」

和可「繭に、舞ってほしかったから」

友亜「どうして」

和可「もちろん本当は私だって友亜と舞いたかった。この一年、それを目標にやってきたからね。でも、私じゃダメなんだ。私が横に居たら、友亜は変われない」

友亜「言ってよ……」

和可「先生にも相談してさ。友亜に足りないものを補えるのは繭なんだってわかったから。私じゃ、友亜はやりやすいだろうけど、どうしても馴れ合っちゃうから」

友亜「私、和可の捻挫がなかなか治らないから、心配して……心配して。ばかあ」

友亜が泣いた

その涙を受け止めるのは、最初からずっと隣にいた者の役目

和可はゆっくり友亜を抱きしめて、力強く、しかし柔らかく腕を回し

和可「ごめんね。ごめんね」

幼馴染みの絆が再確認される

横川以外、ハケる

中ネライ

横川「宵宮の本番はどうだったかって? それはこの後のシーンをご覧になれば、聡明なお客様のことですから、お解りいただけると思います。宵宮が終わると、本格的な夏がやってきます。今年の夏も、暑くなりそうです」

セミの声SE

                 なつぞらを見上げる横川先生

 

 

【第十二景】

うぐいすの鳴き声が聞こえる、春である

数年後の郷土芸能部、あの日と同じ稽古場

その年の宵宮を舞う高校生の二人が雑談している

生徒B「いまコンビニで売ってる春限定のさくらプリン、食べた?」

生徒A「ナニソレ? ピンクなのプリン?」

生徒B「さくらの味なんだよ」

生徒A「さくらの味ってナニ? さくら食べたことあんの?」

生徒B「ないけど……」

生徒A「なんでもかんでもピンクにすればいいと思ってない」

生徒B「でもかわいいよ」

生徒A「それにしても、友亜先輩、帰ってこないね」

生徒B「そうだね、どこまで行ったんだろ」

                 友亜が戻ってくる

友亜「ごめんごめん、お茶が売り切れてて、遠くの自販機まで行っちゃった。にしても、飲み物も値上がりしたねえ」

生徒A「そうだ、知ってる? 飲み物と言えば、今度、駅前にコーヒーショップができるんだって」

生徒B「あ、知ってる知ってる」

友亜「ふうん。ついにとうとう、この町にも出店してくるんだ」

生徒B「自分好みにコーヒーをカスタマイズできるんでしょ」

生徒A「オープンしたらスグ行こう。友亜センパイも一緒にどうですか」

友亜「いいね。私、毎回違うオーダー試そ」

横川、入ってきて

横川「あれ、吉井さん、早いのね」

友亜「ウチの店、定休、木曜日なんで」

横川「あ~、もう木曜か。曜日の感覚、狂ってたわ。最近、忙しくて」

友亜「フレッシャーズ応援フェアが終わると、今度はゴールデンウィーク商戦で、ノンストップです」

生徒A「郷土芸能部も」

生徒B「宵宮まで」

生徒AB「「休みないですよねー」」

などなど言っていると

繭「ごっめぇ~ん、仕事が押しちゃって!」

繭が仕事先の制服のまま

友亜はピクリと眉を吊り上げる

友亜「……おぉぉぉそぉぉぉいいいぃッ!」

繭「信用金庫の窓口業務って、月末は仕事が立て込むのよ」

友亜「言い訳無用!」

繭はあっちゃーという顔で生徒ABに目配せする

一拍置いてから友亜の口元がふっとゆるむ

友亜「ま、コーチ来たからやるよ。はい、並んでー!」

二人「「はぁ~い」」

友亜「じゃ、センセ」

横川「磐座様に、礼。お互いに、礼」

四人「「「「お願いしまぁーす」」」」

繭は、松井田さんの席に、制服のままぽすんと寛いで座る

デッキの再生ボタンを押す

繭と友亜がかつて初めて組んで踊った、

肩がぶつかって、怒られて、泣いて、笑って、あの「鈴上舞」

稽古場の空気がかつての二双一対の舞の気配を取り戻す

音楽が高鳴り、やがてEDのMEとクロスする

緞帳がゆっくり降りる

物語は終わる、

でも神楽は続いていく

 

 

《幕》